蛋白尿をターゲットとした、CKDの保存的治療

このホームページでは、IgA腎症において蛋白尿を治療のターゲットとすることが理にかなうとことを強調していますが、

CKD一般においても蛋白尿を治療のターゲットとしてよい、と考える腎臓内科医は多数います。

2015年、アメリカ腎臓学会誌の臨床誌(CJASN)に蛋白尿を治療のターゲットとことに対する 支持する立場と反対する立場のreviewが掲載されましたが、

その後、複数の大規模なコホート研究が報告され、CKD一般において蛋白尿の減少は予後改善を意味し蛋白尿の増加が予後悪化を意味することがより強く示されています。

蛋白尿の減少に関しては、尿蛋白の30%の減少でも統計的に有意な予後改善効果があるとの報告もあります。

蛋白尿の減少を治療のターゲットとするには スポット尿の 尿蛋白・クレアチニン比 を用いることが現実的です。

尿蛋白・クレアチニン比 を減らす保存的な介入として 

  1)通常より低めの血圧管理 (自宅血圧で120前後など) 

  2)ACEI  or  ARB 

  3)SGLT2阻害薬

  4)ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (高カリウム血症に注意が必要です)

  5)塩分制限

  6)体重のコントロール

が一般的な方法です。

これらの介入は、集団の解析で1年後に蛋白尿の程度が減った、というこではなく、

個々の患者さんで、介入後、2週間〜数ヶ月の経過で蛋白尿の減少が確認できます。

介入して、結果として、尿蛋白・クレアチニン比 が低下していれば、その患者さんの予後は改善したと判断してよいわけで、
血圧の低下、A1cの改善、LDL-Cの低下、と同様に考えることができます。

 

 

だだ、体重のコントロールを除き、血清クレアチニン値の少々の上昇、GFRの軽度の低下を伴う場合もめずらしくありません。

GFR=「糸球体数」x「一つの糸球体のGFR」  ですが、

このGFRの低下は、糸球体内圧の低下による可逆的な経過であり、糸球体が潰れた・腎の組織障害が進行したような不可逆的な経過ではありません。

CKDの勉強をした患者さんは、eGFRの低下を気にされる場合も多いのですが、

介入をすると、腎臓がゆっくり走るようになるので、結果として 長距離を走るこができることになります、といった説明も有効です。

 

一方で 過剰降圧による失神やAKIのリスクの上昇も伴うことも事実です。

一律な血圧の目標値ではなく、個々の患者さんでの さじ加減 が必要なのだと思いますが、

特に夏の時期には、血圧も低めとなり、熱中症のリスクも高くなり、夏の時期にAKI用の腎機能の低下が、CKDの進行を早めているような印象の症例報告もなされています。

この対策としては、夏の時期には、降圧剤を減量する、降圧目標を少し高めとする、血圧低下時には降圧剤の減量を指示する、ACEI-ARB-MRA系の降圧剤の量を減らしCCBを増量しって血圧をコントロールする、などの、さじ加減は理にかなうと考えます。

 

 

多数のコホート研究の結果は 糖尿病患者の予後とHgbA1cの関連よりも CKD予後と蛋白尿の関連の方が はるかに強く、したがって、尿蛋白を治療のターゲットとして良いように思えるのですが、残念ならがそのような意見は少数派です。
この理由の一つは、血糖や高血圧と違い、腎障害が進行がかならずしも尿蛋白の結果ではない、からだと思います。
多彩な腎障害の原因にもかかわらず、蛋白尿の減少が腎障害の進行の抑制を意味する理由についての考察は、
➡️「CKD 個々の患者で蛋白尿を治療のターゲットとしてよい理由」  をご参照いただければ幸いです。