CKD 個々の患者で 蛋白尿を治療のターゲットとしてよい理由

 

多数のコホート研究の結果は 糖尿病患者の予後とHgbA1cの関連よりも IgA腎症の予後と蛋白尿の関連の方が はるかに強く、
したがって、尿蛋白を治療のターゲットとして良いように思えるのですが、残念ならがそのような意見は少数派です。

 

糖尿病の場合、高血糖が障害を引き起こすので、Jカーブが繰り返し報告されても、血糖値マーカーであるA1cを治療のターゲットとすることに異論が挟まれることはありません。
一方、蛋白尿の場合、蛋白尿そのものがある程度の腎障害の引き金となるとの研究は多数あるものの、どちらかといえば、糸球体障害の結果が蛋白尿 と考える場合が多いことが、治療のターゲットとされにくいことの一つの原因と思います。糸球体障害の本質は別にある、といっった『感覚』です。IgA腎症研究のフィールドではIgA腎症の治療のバイオマーカーの確立が必要、といった考えは、この「感覚」からだと思います。 〜臨床医としては、IgA腎症にとって蛋白尿は十分すぎるほどの「バイオマーカー」であると思うのですが、、、


そして、よくある批判が 微小変化では腎障害が進まない、といった批判です。

 

ですが、見方を、「個々のCKD患者の予後」と考えた場合、下記のような考えが成り立ちます。


基礎疾患ごとに 蛋白尿の程度と 悪化速度は異なるわけですが、
  〜 尿蛋白が 0.5~1.0 g/gCr なら、腎不全の進行は比較的緩徐です。ご参照ください。➡️

これは ある意味、当たり前です。
蛋白尿が腎障害の原因である要素は低く、一方、糸球体障害のメカニズムはいろいろであり、そのいろいろなメカニズムから蛋白尿が出る過程も多様、だからです。

 

膜性腎症の場合は、podocyteの膜蛋白の細胞外ドメインに対する自己抗体がpodocyte上で免疫反応を起こすことが病態の第一歩です。このメカニズムは、podocyteスリット膜蛋白への影響が大きく、比較的多くの蛋白尿がでるものの、組織障害力はそれほど高くない。

 

一方、IgA腎症の場合、糖鎖異常IgAと関連した免疫系の反応が主にメサンギウム領域で起こります。
メサンギウム領域の異常は、直接的に多量の蛋白尿に結びつかず、その後の複雑な病態悪化の結果として、蛋白尿が出現すると考えられます。
炎症の強い糸球体から蛋白尿が出ることもあれば、糸球体硬化が進行しhyperfiltrationの結果として蛋白尿がでることもあると想定されます。
いずれにしても、複雑な病態がかなり進行・悪化した結果として蛋白尿が出現するので、1g程度の蛋白尿でも進行性の腎障害の経過を反映する、と考えられます。

 

このように、疾患ごとに(患者ごとに)基本となる病態は異なり、蛋白尿出現のメカニズムは異なりますが、
    病態の進行・悪化が 蛋白尿の増加 にも  腎障害の進行 にもながる、
    病態の改善・治癒が   蛋白尿の低下 にも  腎障害の進行の抑制 にもつながる、

と、いう、基本は変わりません。

 

個々の患者では、「ある固有のメカニズムで」蛋白尿がでているが、
個々の患者としてみた場合、蛋白尿の増加・減少が、原病の病態の悪化・改善を反映していると、考えることは それなりに理にかなうのではなにでしょうか?

蛋白尿の増減が腎予後を強く規定しているという事実は この仮説?を支持しているように思います。

 

 

 

 

同様の臨床上の治療マーカーが 他にないか、と 考えているのですが、思い浮かびません。
なにか良い例がありましたら、ご教示をいただければ、と 思っています。

生物学ではないのですが、エンジン故障の時の異常音、は同じようなものかもしれません。
いろいろな原因の故障で エンジンは異常音を起こします。
個々の異常の種類により 異常音の大きさは 異なり、小さな音で止まる場合もあれば、大きな音を出す場合もあるものの、
個々の異常で、異常音が大きければ大きいほど、エンジンが止まるリスクは高い
といった事例です。