尿蛋白が 0.5~1.0 g/gCr なら、腎不全の進行は比較的緩徐です。

 

CKD分類では、尿蛋白が 0.5g/gCr 以上をA3に分類しています。

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                       末期腎不全へ進行の相対リスク
                       Kidney International (2011) 80, 17–28  より改変 


同じeGFRであれば 尿蛋白が 0.5を超えた場合、尿蛋白陰性との比較で、その後の腎不全進行のリスクの比は10倍〜50倍ですが、
このリスク分類には若干のトリックがあり、尿蛋白が 0.5~1.0 g/gCr なら、腎不全の進行のリスクはそれほど高くありません。

0.5g/gCr を超えた蛋白尿の領域でも 蛋白尿の程度と腎不全進行の関係は The higher the worse (高ければ高いほど進行しやすい)の関係にあり、
1gを超えて尿蛋白が多いグループのリスクが極めて高く、その高いリスク値が0.5g/gCrを超えた群全体のリスクを高めているからです。
0.5 以上のA3でも  1.0 以下であれば、比較的
リスクが低い、ということです。

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上記表を引用した論文(Kidney International (2011) 80, 17–28 )では、A3を Albmin尿 a)0.3~2.0  と b) 2.0以上 に分けた分類も提唱されており、2.0以上はeGFR正常であっても 超高リスクに分類されています。

IgA腎症を例にとっても、蛋白尿の平均値で 0.5~1.0 に比べ 1〜2 2〜3 3以上と予後がどんどん不良となることが知られています。

  

ただし、一方で、病理分類により、蛋白尿の程度と腎機能悪化のリスクに 差があることも知られています。
同じ蛋白尿の程度であれば 膜性腎症の予後はIgA腎症の予後より良好です。FSGSは両者の中間にあたります。


Nephrology Dialysis Transplantation, Volume 23, Issue 7, July 2008, Pages 2247–

Fig 2 に 膜性腎症、FGS、 IgA腎症  それぞれの組織型ごとの蛋白尿と腎機能低下速度 GFR slope が示されています。
0.5~1.0 でも 低下速度は - 1~3 ml/min/1.73m2/year と十分に病的ですが、
  膜性腎症     5gを超えると
  FSGS        2gを超えると
  IgA腎症     1gを超えると
GFR slope が急峻になっています。

Kidney International (2015) 88, 1392–1401
同じく、Toronto Glomerulonephritis Registry を用いた論文ですが、Table 2 では、それぞれの病理型でのF/U 期間、primary outcome は同等ですが、尿蛋白の程度は MN > FSGS > IgAN であり、上記結果とフィットするデータです。

 

韓国からも同様の傾向が報告されました。
Kee YK et al 
Determination of the optimal target level of proteinuria in the management of patients with glomerular diseases by using different definitions of proteinuria
Medicine (Baltimore). 2017 Nov;96(44):e8154. PMID: 29095250

 

 

冒頭に掲げたCKDのヒートマップはすべての病理型をまとめたものです。

 

 

比較的少量の尿蛋白でも腎不全進行のリスクが最も高いIgA腎症の場合はどのぐらいのリスクでしょうか?

中国のコホート研究からは、尿蛋白が0.5~1.0が持続したIgA腎症(尿蛋白の平均 time average proteinuria が 0.5~1.0 の場合)の516例では
10年で5%、20年で11% eGFRの低下率は平均で-2 ml/min/1.73m2/year  (最小 -4.0   最大 0.25)となっています。
ちなみに -2 ml/min/1.73m2/year であれば、GFR 70から末期腎不全まで 30年を要する計算になります。

 

蛋白尿の多い糖尿病性腎臓病においても同様の傾向があります。

Nephrology Dialysis Transplantation, 28: 2526–2534 2013

Reduction and residual proteinuria are therapeutic targets in type 2 diabetes with overt nephropathy: a post hoc analysis (ORIENT-proteinuria)

のFIG 5 をご覧ください。

 

ORIENT は軽度の腎機能低下を認める2型糖尿病の顕性腎症対するオルメサルタンの有効性を検証したRCTですが、7割がACEIをすでに内服していたこともあってか、オルメサルタン投与群で尿蛋白の減少は有意だったものの、腎保護効果は認められないとの結果でした(Diabetologia (2011) 54:2978–2986 )。

この文献は、ORIENTにおける個々の患者の尿蛋白と腎予後の関係を検討したpost hoc analysis です。

オルメサルタンの投与の有無にかかわらず、尿蛋白の程度と尿蛋白の減少の有無が予後に強い影響を与えることが明らかとされていますが、
Fig 5 は 治療期間における尿蛋白の程度と腎予後の関係を示しています。
UPCR (urine protein creatinine ratio) が 1.0 を超えてくると、腎不全進行のリスクが明らかに高くなっています。

 

 

これらのデータは比較対象が健常人ではないことに注意が必要ですが、
UPCRが1を超えたCKDと UPCR 0.5~1.0 のCKDの腎予後は明らかな違いがあることは明らかです。

 

健常人からCKDをスクリーニングするときにはCKDのリスク分類は有用と思いますが、
専門医の元で治療介入をする場合は 0.5以上をA3としてを一律の扱いとすることは問題があると思います。

 

 

また、CKDヒートマップは クロスセクショナルなデータであることも注意が必要です。
尿蛋白が 0.5~1.0 のグループは将来蛋白尿が1g以上に増加するリスクが高く、その群は予後がよりわるい、
一方で尿蛋白が減少する群もあり、その予後はよい、ことになります。

従来より、IgA腎症、膜性腎症、FSGS、糖尿病性腎症、各々の病理型・病型で、尿蛋白の減少群の予後がよいことが知られていましたが、
この数年、CKD一般大希望なデータをもとにした、尿蛋白の増加する群の予後は悪く、一方で尿蛋白が減少する群は予後がよい とするコホート研究がいくつか報告されました。