IgA腎症における血尿と予後

 

まとめ。

 

1)検尿異常において、血尿陽性例はIgA腎症の可能性が高くなり、IgA腎症は同じ蛋白尿の程度でもその他の腎炎に比べて腎不全の進行のリスクが高いため、同じ蛋白尿の程度でも血尿陽性例は IgA腎症の可能性が高くなるという意味で、予後が心配な所見です。

 

2)IgA腎症と診断された場合、血尿と予後の関係は明確ではありません。

 

3)IgA腎症の予後には蛋白尿の程度が決定的に重要であり、血尿と予後は蛋白尿の程度ごとに考える必要があります。

 

4)蛋白尿が陰性・少量で、血尿を認めるのIgA腎症の予後は、その後に蛋白尿の増加がなければ、極めて良好です。➡️
  一方で、多量の蛋白尿に血尿を伴い、数年で末期腎不全へ進行するタイプもあります→7)

 

5)2017年の論文➡️で、尿蛋白の平均値が 0.75以下のIgA腎症においては、血尿の持続、寛解は予後に影響しないことが報告されました。

  • 尿蛋白の平均値が 0.5~1.0 は 尿蛋白の平均値が0.5 以下のIgA腎症より予後が不良です。したがって、尿蛋白があまり多くないIgA腎症にとって、血尿より、蛋白尿の程度が重要です

 

6)上記論文で、尿蛋白の平均値が0.75以上のIgA腎症において、血尿の寛解群で予後がよい、されていますが、血尿寛解群では蛋白尿も減少していた可能性が高いと考えています。

 

7)1g以上の蛋白尿(特にネフローゼレベルの多量の尿蛋白)と 多量の血尿(時に肉眼的血尿)を同時にみとめ、腎生検では半月体も含めた強い組織変化を認め、急速に進行するIgA腎症があります。

  • このタイプのIgA腎症は、寛解しなければ、数年で末期腎不全に進行します。
  • 進行は早いので、1g以上の蛋白尿に血尿を合併する場合は、早期に腎生検を受けIgA腎症であれば免疫抑制治療を受けることをおすすめしてたいと思います。この場合、無理やり扁摘を先行させる必要は高くないのでは、と思っています。扁摘について➡️
  • IgA腎症で血尿が予後不良を意味するという結果は、このようなタイプのIgA腎症の予後を反映した結果では、と考えています。

 

8)   7)のタイプのIgA腎症を除けば、肉眼的血尿の既往があるIgA腎症は むしろ予後がよいとする結果が繰り返し報告されています。

 

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IgA腎症では、蛋白尿に血尿を合併することが多い、蛋白尿を認めない血尿単独の症例もある、などIgA腎症は血尿が特徴的な疾患です。

また、IgA腎症はその他の腎炎と異なり、蛋白尿が1gを超える程度でも腎機能の進行性の悪化を認める場合が多い、という特色があります。

したがって、検尿異常において、蛋白尿単独と比べると、血尿の合併例はIgA腎症である可能性が高いことになり、同じ蛋白尿の程度であっても予後不良の腎炎の可能性が高いということになります。

 

一方で IgA腎症と診断が確定した場合、IgA腎症における血尿と予後の関係はいわゆるcontroversialな問題です。

一部の方々は「血尿は血管炎の合併を意味し予後不良を意味する」という病因論的な解釈を強調し、極端な施設では血尿を治療のターゲットとするアプローチをとっている場合もあるようですが、これまでのコホート研究の結果からは、蛋白尿と異なり、血尿とIgA腎症の予後の関係は十分に明らかとされていません。

 

コホート研究そのものが蛋白尿とくらべてはるかに少なく、その少ない研究結果では、血尿が多い方が予後がよいとなった研究、逆に血尿が多いと予後が悪いとなった研究、血尿の程度は予後に影響しない、様々な結果となっています。

 

エビデンスに基づくCKDガイドライン2018  でも
「IgA 腎症において血尿(顕微鏡的・肉眼的)は腎機能予後に 関係するか?
 ~  現時点では,IgA腎症において血尿の有無や程度が腎機能予後に関係するとした十分な エビデンスは乏しい」 p113

とされています。

 

血尿は検尿検査の結果です。
その意義は、IgA腎症において予後を極めて強く規定することが明らかとなっている蛋白尿の程度とあわせて解釈すべきであり、
エビデンスに基づくCKDガイドライン2018 のように、血尿だけを取り出して議論すること自体が有意義にならないのでは、と思います。

 

  上記のガイドライン本文中には、Sevillano AM, et al. J Am Soc Nephrol 2017;28:3089‒99 の論文を引用し、
「経過中 の血尿の持続が腎機能予後に関与していること,言いかえると,血尿が治療効果判定の指標となり,血尿を寛解させることで腎機能を保持できる可能性が 報告された」
との記述がみられますが、この論文解釈は、原著にある蛋白尿の程度での区分を無視しているがために、引用した論文の内容を十分に反映しているとはいえません。
また、読み方によっては「(血尿単独の症例においても)免疫抑制治療により血尿を寛解させることで腎機能を保持できる可能性が 報告された」と拡大解釈可能とも思えてしいますが、蛋白尿を合併しない血尿単独の症例はその後に蛋白尿が増加しなければそもそも予後は良好であり、自然歴として、血尿を寛解させなくても、腎機能は保持される病状です。

 


引用された論文(Sevillano AM, et al. J Am Soc Nephrol 2017;28:3089‒99 )を紹介いたします。 

 

生検時に血尿を認めたのIgA腎症において、血尿の寛解と予後の関係を検証した論文です。
生検時75%が尿蛋白0.4g以上ですが、eGFRは58+34 と腎機能低下群をある程度含んんだコホートです。

全体としてみると、Fig 1 のKMにて、末期腎不全への進行も腎機能の50%低下も 血尿寛解群で予後がよい結果となっています。
一方で、FIG 3 では time average proteinuria 0.75  以上と以下 各々で、血尿寛解と予後が示されており、
TA-Progeniuria 0.75 以下の群では、血尿寛解の有無は予後に影響していません。

つまり、IgA腎症の多数を占める 尿蛋白が比較的少ないグループにおいては、血尿寛解の有無は予後に影響しないことが示された、という意味でこの論文は重要です。


日本からの近年の蛋白尿の少ないグループの長期予後の報告でも、血尿の程度は予後に影響しないとの結果でした。
    Clin Exp Nephrol, 19 (5), 815-21  Oct 2015  (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25475403)  

 

 

 

一方で尿蛋白がTA-proteinuria 0.75 を超える群では、血尿持続群で予後が不良、血尿寛解群で予後良好であり、
また、多変量解析にて、血尿寛解が蛋白尿の減少と独立して予後がに影響するという結果となっていますが、
統計解析方法に問題があり、
この論文だけを根拠に尿蛋白が多い症例群において血尿の寛解が予後を改善する、と考えることはできないと思います。

 

尿蛋白が多く血尿が持続したグループは 血尿が寛解したグループより、尿蛋白が多かった可能性が高いと推察されるからです。

 

この論文では、TAproteinuira 0.75 以上・以下の2群に分けて解析を行っていますが、IgA腎症においてはTAproteinuira 0.75 以上においても尿蛋白が多ければ多いほど予後が悪く (論文[2]~[4] )、この高度の蛋白尿の予後に対する影響が解析に反映されない方法をとったことが問題です。
  〜Time average proteinuria と 腎予後➡️ もご参照ください。


論文中で、TA-Proteinuria >0.75において、血尿非寛解群のTA-Proteinuria値の記載はあるものの、

TA-Proteinuria >0.75・血尿寛解群 のTA-Proteinuria値が記載されていません。
TA-Proteinuria が 血尿寛解・非寛解で同等であれば、声高に、血尿 寛解の意義を語れるはずですが、Table6 では、なぜか、TA-Proteinuria >0.75・血尿寛解のデータは提示せずに、TA-Proteinuria >0.75・血尿寛解を、TA- Proteinuria <0.75群・血尿持続、TA-Proteinuria>0.75群・血尿寛解とまとめてしまい、 この3群を others としてTA-Proteinuria のデータを提示しています。

おそらく、ですが、TA-Proteinuria >0.75・血尿寛解は  TA-Proteinuria >0.75・血尿非寛解群よりTA-Proteinuria が低かったのでしょう。 


また、多変量解析において、TA-Proteinuria 0.75以上・以下の区分けで蛋白尿を扱うことで、血尿寛解例では血尿持続例より蛋白尿が少なかったことの影響を回避し、 血尿持続の予後への影響のインパクトを強く出した可能性が高いと考えます。
IgA腎症では 1g 以上の蛋白尿のレベルでも、蛋白尿が多ければ多いほど、腎機能の悪化速度が早いことから、
TA-proteinuria を1g 区切りで 扱えば 蛋白尿のインパクトが上がり、血尿のインパクトは小さくなったのでは と推察されます。

 

カプラン・マイヤーをみると、血尿持続群 では、2〜3年でESKDに進行してる例が多く、この間に予後の差が広がりますが、3年以後は血尿の有無 でイベントの発生に大きな差はな いように見受けられます。
この結果は、高度の蛋白尿と血尿を伴い急速に進行する、半月体形成性IgA 腎症 (crescentic IgA nephropathy)が血尿持続群に含まれ、その結果、血尿・非寛解群の予後が悪くなっ た可能性がを示していると思います。

 

以上、文献9では TA-Proteinuria > 0.75において、血尿の持続と高度の蛋白尿が交絡因子と なっていた可能性が高いと思います。
今後、TA-Proteinuria > 0.75 の蛋白尿のレベルを細かく分け(1g~2g、2~3、3~など)それそれでの血尿寛解と予後の関連について、ならびに、血尿寛解群における蛋白尿の程度と予後に関するコホート研究が報告されるまで、蛋白尿の多い群では血尿が寛解すれば・蛋白尿が減少しなくても予後は良くなるという判断はしない方が良さそうです。

 

さらに、この論文でも報告されていますが、多量の血尿・蛋白尿を伴う進行の早いIgA腎症においては、免疫抑制治療で尿蛋白と血尿 が減少します。
現時点で、蛋白尿に減少させず、血尿だけを寛解させる という介入が可能なのは、蛋白尿陰性・血尿陽性群だけではないでしょうか?

この群において「血 尿を寛解させることで腎機能を保持できる」との記述が明らかな誤りであることは前述したとおりで す。

 

今後の課題としては、免疫抑制治療後に、蛋白尿が寛解し、血尿が持続した場合、血尿をターゲットとして免疫抑制治療を継続することにより、
将来の蛋白尿の再発が減るのか、否かが、の問題があります。

日本腎臓学会が設定した、IgA腎症の寛解の定義には血尿が含まれています。今後の研究結果が待たれるところです。

 

 

肉眼的血尿と予後

肉眼的血尿の既往のあるIgA腎症は予後良好であることは世界各地から報告があるのですが、これについて、早期に発見されるので予後がよい、という意見がありますが、IgA腎症の免疫抑制治療は一般的ではない地域・古い時代の研究でも認めあれられた事実を考えると説得力のある見解とは思えません。

 

一方で肉眼的血尿を伴い急速に進行するIgA腎症の報告があり、肉眼的血尿を認めた場合は、短期間でのF/Uは必要と考えます。

 

 

[2]J Am Soc Nephrol. 2007 Dec;18(12):3177-83. Epub 2007 Oct 31. Remission of proteinuria improves prognosis in IgA nephropathy. PMID: 17978307

[3] Nephrol Dial Transplant. 2008 Jul;23(7):2247-53. The impact of sex in primary glomerulonephritis. PMID: 18182409

[4] PLoS One. 2014 Jul 8;9(7):e101935. Optimal proteinuria target for renoprotection in patients with IgA nephropathy. PMID: 25003873