ARB ACEI 開始後 のeGFR低下例は予後不良か?

ACEI ARB には腎血流の低下、糸球体内圧の低下を介した機能的なGFRの低下を伴う腎保護作用があるとされ、従来のCKDガイドには「CKD患者にACE阻害薬やARBを投与すると,血清クレアチニン値が上昇することがある.しかし,前値の30%までの上昇か1 mg/dLまでの上昇なら,薬理効果としてそのまま投与を継続してよい」という記述がありましたが、2017年にACEI ARBの服用開始後にクレアチニン値が上昇は30%未満でも末期腎不全も含むの心・腎臓有害イベントを上昇させるとのコホート研究が報告され(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28279964) 新しい腎臓学会のガイドラインでは「30%未満の増加はそのまま投与してよい」との記述が削除されました。

とはいえ、上記の論文を根拠に ACEI ARBの服用開始後のクレアチニン値の軽度の機能的な上昇は予後不良を意味し投与を中止すべき、という解釈は大きな問題があります。

この論文では、ACEI/ARB投与前 12ヶ月までのクレアチニン値を前値として採用し、投与開始2ヶ月のクレアチニン値との比較で上昇例を抽出しています。

ARB ACEI.jpg
この手法では、ACEI/ARBによる機能的なGFRの低下例だけでなく、器質的な腎障害進行例も 投与開始後のクレアチニン値上昇例に含まれてしまいます。
器質的な腎障害進行例が予後不良ですので、従来語られていた機能的なGFRの低下のリスク評価としては不適切であることは明らかです。

このコホートから、ACEI/ARB を開始していない群を抽出すること可能とおもわれ、そのようなACEI/ARB 非開始群において同様の手法で予後解析を行い、ARB/ACEI開始群との比較は容易にできたはずですが、そのようなデータの提示はありません。
センセーショナルな結果をねらった、いただけない、論文であると考えます。

2019年には糖尿病患者に対するACEIと利尿薬の同時投与で血圧を管理することにより合併症発症低下を報告したADVACE Trial の詳細なサブ解析が報告され、短期的なeGFR低下群は非低下群よりも予後は悪いものの、ACEIと利尿薬非投与群でも同様の傾向がみられ、 同等の低下群の比較では、低下の程度は ACEIと利尿薬のイベント抑制効果に影響しない、との報告がなされました。

別の重要な視点は、ACEI ARBによる腎保護作用は 尿蛋白の多い症例において、尿蛋白が減少した症例で 明らかである、という点です。