扁桃腺摘出は再発を減らすので、できる方には薦めたい。
まとめ
1)扁摘後にステロイドパルスを行なうことにより、尿蛋白の寛解率は若干上昇するが、決定的な差ではないと思える。
2)一方で扁摘に、ステロイド治療後の蛋白尿の再発の抑止効果があることを支持するデータは多数ある。
〜 蛋白尿の再発はIgA腎症の予後悪化因子である。
3)腎機能に関する長期予後も扁摘群は良さそう。
4)2)3)より、可能であれば、扁摘を行なうことが好ましいと思える。
5)扁桃腺摘出は腎生検やステロイド治療より、リスクが高く、また、入院期間も長い
6)扁桃腺摘出をパルスに先行して行う必要性は必ずしも高くない一方、血尿を伴い、蛋白尿が1gを明らかに超えるようなタイプは、数ヶ月で組織障害が進行する場合もあり、扁摘に時間がかかるのであれば、それを待たずに早期にステロイド治療を受けることが好ましいとも思える。
7)IgA腎症の病状、年齢、ライフスタイルなども考えながらの、患者さんの選択になるかと思います。
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堀田先生がはじめた扁摘パルス治療は、日本では予後の悪いことが想定されるIgA腎症の標準的、といってよい治療となっているいと思います。
一部の施設では、扁摘を先行し、その後にパルスを行うプロトコールを固定して「扁摘パルス療法」としているようです。
ですが、扁摘の意義は大いにあると思いますが、扁摘をパルスに先行させなければならない、では、ないように思います。
堀田先生もそのようなご意見を述べられていたこともありました。
特に、半月体を伴い、蛋白尿が多い、急速な糸球体硬化の進行が想定される場合は、短期的な設定が困難な扁摘よりも、早期にステロイドパルスを行うことが良いように思いますし、蛋白尿が1gを明らかにこえているような場合に、扁摘入院の時期の調整のために数ヶ月治療開始を先送りにすることは予後を悪化させてしまうかもしれません。
パルスに先行する扁桃腺摘出は寛解率を上昇さる効果があることは、慈恵医大の川村先生を中心とするRCTともう一つ、中国からのRCTによりにその有効性が報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24596084
さらに比較的規模の大きい日本のコホート研究の傾向スコアの解析により
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31150076
扁摘によりクレアチニンの1.5 倍に腎機能が悪化してしまう症例が減少することが示唆されています。
とはいえ、IgA腎症には自然寛解例もあり、パルスやステロイドの内服で寛解する症例もめずらしくないこと、上記のデータを根拠に全症例で扁摘先行のパルスを強く推奨する必要があるとは思えません。
また、IgA腎症には高度の蛋白尿と血尿と半月体形成を伴い、を急速に組織障害が進行するタイプもあり、このような症例では扁摘を待たずに早急にステロイド治療を先行して行うべきでは、と考えています。
一方で、扁摘にはIgA腎症の再発を減らす効果があることが、論文としても日本、ならびに 海外から報告があり、
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26727697
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=23557791
さらに、学会報告では、当院も含めた単独施設の数十例の検討でも扁摘による再発抑制効果が認めれらるとの報告が多数あり、扁摘の再発予防効果はかなり強いものでは、と思われます。
一度寛解となった後の再発はIgA腎症腎不全進行のリスクであることは明らかなので、超長期予後を考えた場合は扁摘を受けることが好ましいように思います。
また、尿蛋白が1gを超えていない 0.5~1.0 程度のIgA腎症の場合、ステロイド治療早期に行う必要性は低く、まず、扁摘を行い、蛋白尿の減少がない、あるいは蛋白尿の増加があった場合はステロイド治療に踏み切るという方法もあると考えます。
治療選択には 年齢や社会生活の考慮も欠かせないと考えます。
将来の再発のリスクは年齢の低い方ほど多いことより、若年の方ほど、扁摘をおすすめしたいと感じますし、
社会人になる前に、あるいは妊娠出産を準備する前に、扁摘をしておく、といった考え方も成り立つと思います。