IgA腎症 尿蛋白0.5〜1.0 の免疫抑制治療について。

腎生検によりIgA腎症であるか否かを診断する目的は、その他の検尿異常を来す疾患と異なり、IgA腎症では1g程度の蛋白尿が持続した場合でも10年程度で末期腎不全に進行するリスクが十分にあり、かつ、そのリスクを扁摘パルスなどの「ある程度副作用の可能性のある治療」により回避できるチャンスが増えるからです。(副作用のリスクの少ない治療で寛解するならば、腎生検は受けずに治療をするという選択肢も成り立ちます)

 

尿蛋白が1gを超えたIgA腎症でも自然寛解する場合もありますが、その頻度は高くなく、
  〜 IgA腎症 初期蛋白尿の程度ごとの Time average proteinuria ➡️ ご参照ください。

 かつ、蛋白尿が持続する場合は組織障害も比較的急速に進みます。尿蛋白が1gを超えた状態が1年以上持続したIgA腎症は予後がかなり悪いことも報告されており(小林豊先生の学会発表です)蛋白尿が多ければ多いほど、病理組織の障害度が高いほど、あまり先送りは選択せずに、免疫抑制治療を受けることがよいのでは、と思います。

 


尿蛋白1.0以下のIgA腎症に対する扁摘パルス治療は、10年程度の期間において末期腎不全進行のリスクを減らすことがコホート研究で示されていますが、尿蛋白が1.0以下で経過した場合、10年で末期腎不全に進行するリスクはほとんどなく、コホート研究で示されたこのグループでの扁摘パルスの有効性は、尿蛋白がその後に1gを超えた症例に対するものと推察できるので、このようなコホート研究を根拠に、尿蛋白1.0以下のIgA腎症であっても全例を扁摘パルス治療の対象とする必要はないと考えます。

 

 

尿蛋白がすくなければ少ないほど、その後に尿蛋白が増加して1gに到達し、さらにそれが持続、time agerage proteinuria が1gを超える経過となってしまい、10年で腎不全に進行するリスクが極めて高いIgA腎症となってしまうリスクは低いと考えられます。
  →「IgA腎症 初期蛋白尿の程度ごとの Time average proteinuria➡️ 」 ご参照ください。   

 

特に 尿蛋白が0.5g 以下の場合は、腎機能の悪化していくリスクはほとんどありません。
ですので、経過観察は必須ですが、尿蛋白が増加した段階となってで免疫抑制治療をうけるという選択肢が、一般的には推奨できるのでは、と思います。
1)将来蛋白尿が増加するリスクがあまり高くないこと、ならびに、2)このレベルの蛋白尿であればそれが持続しても腎機能の低下はまずおこらないこと、がこの選択肢が一般的に推奨されている理由です。
なお、例外的には、就職前の若年の患者さん、妊娠をご希望の患者さん、などで、扁摘パルス あるいは 扁摘だけ、はうけておく、という選択をされる方もいます。

 

前置きがながくなってしまいましたが、

問題は表題の 「尿蛋白0.5 ~ 1.0 が持続する、IgA腎症において 免疫抑制治療が推奨できるか」 です。

 

結論から言えば、0.5 ~ 1.0 の場合、早期に抑制治療を受ける必要はないと考えますが、
持続する場合は扁摘を先行し、その後も蛋白尿が持続した場合はパルスを受ける、というアプローチも良いのでは、と思っています。

 

実際の臨床の現場では、尿蛋白が1gを超えた症例では扁摘パルスなどですっかり寛解してしまう症例が多い一方、尿蛋白0.5 ~ 1.0 が持続する方の場合、免疫治療を受けずに長期検尿異常が持続し20年以上たった段階でCKDステージが進行してしまう方もいらっしゃいます。 


0.5 ~ 1.0 の場合、1年程度で腎機能障害が明らかに進行することは極めて稀、10年後に透析に至ることも1g以上の持続と異なり例外的である一方、その後に蛋白尿が減少する場合も珍しくなく、早期に免疫抑制治療を受ける必要性は低いと考えます。
  →  「Time average proteinuria と 腎予後 ➡️ 」 「IgA腎症 初期蛋白尿の程度ごとの Time average proteinuria➡️」をご参照ください


なのですが、0.5 ~ 1.0 が長期、数年以上〜10年ぐらい〜持続すると、緩徐な進行ではありますが、組織障害・GFRの低下が起こると考えられます。
  →  「Time average proteinuria と 腎予後 ➡️ 」 をご参照ください。

緩徐な腎組織障害と腎機能の低下が進んだ段階で尿蛋白が1gを超えた場合、扁摘パルスをうけても寛解に至らない可能性が高くなり、生涯CKDのリスクにさらされることになってしまうリスクが十分にあることになります。


このような事情から、しばらくの経過観察後にも0.5 g 以上1.0g以下の尿蛋白が持続する、比較的若年の方は、GFRの低下がお起こる前の免疫介入が推奨できるのでは、と考えます。

 

その方法ですが、扁摘を先行することも良いように思います。 

扁摘単独は ステロイド治療と異なり、蛋白尿を短期的に減少させれる効果は限定的です。しかしながら、超長期にわたり、IgA腎症の再燃 再発を抑制することが期待できます。IgA腎症に対する超長期戦略として有用では、と思えます。
0.5 g 以上1.0g以下の尿蛋白が持続するIgA腎症は20年後に軽度のGFR低下が問題となるような超長期の問題です。

 

扁摘後も蛋白尿が持続した場合は、寛解をめざしステロイドパルスを追加するとよいように思います。