eGFRが低くても、蛋白尿が少なければ、あまり心配はありません。

eGFRが60以下となると「透析予備軍です」とされる場合もあり、将来の透析を心配されて腎臓内科を受診される方が珍しくありません。

以下、高血圧、糖尿病、喫煙、過度の肥満、などに対する適切な対応をすれば

蛋白尿が陰性であれば、 それほど心配する必要はない、過剰な心配は不要」 ということを解説いたします。

 

 

 

まとめ

1)蛋白尿が陰性であれば、現時点で腎機能が低下していても、今後、進行性に悪化する可能性は低い。

2)そもそも、透析が必要になる人は数百人にお一人。腎機能が全く正常の人と比べて将来透析の可能性が少々高くても、よほど運が悪くない限り、透析が必要となることはない。

3) eGFRそのものは不正確なGFRの評価法であり、GFRの低下の全くない人も多数ふくまれている。また、45~60での軽度のリスク上昇は真のGFRがeGFR以上に低下している例外的な少数の方のリスクを拾っている可能性があり、多くの人のリスクはさらに低い可能性が高い

4) 高血圧、糖尿病、喫煙、を放置しないことが大切

5)特殊な原因がないことの確認は必要 
    ・薬剤性の腎障害

    ・水腎症による腎障害 
    ・その他

 

 

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1)蛋白尿が陰性であれば、現時点で腎機能が低下していても、その後に進行性に悪化する可能性は低い

eGFRは腎臓の力の重要な指標であり、なんらかの原因でeGFRの低下してしまい、eGFRが 5 程度に低下すると透析が必要となってしまいます。
その意味で、低いことは悪いこと、ではあるのですが、仮にeGFRが50でもその後にeGFRが進行性に低下していかなければ透析に至ることありません。

慢性腎臓病をお持ちでない方でもeGFRは1年で0.3 程度低下していくことが知られています。
20才でeGFR 80の人は 80 才になると62に低下することになりますが、
eGFR 年 1.0 の低下を想定すると 80才でeGFRは 20まで低下してしまうことになり、eGFR 年 1.0 の低下は病的な低下率と考えられます。

 

図1

CKD 1.jpg 

年 1.0 の低下という病的なeGFRの低下を想定すると 40歳でeGFRが45の場合 80 歳で 透析が必要となってしまいますが(図2)、eGFRが 70 あれば 105歳までは透析は必要ないこととなります。
このような意味で、GFRの低下は腎臓の予備力の低下と捉えることは可能で、eGFR  45  の場合 CKD分類ではG3 に分類されることになりなり、健常人の半分しか腎臓の力がありません、透析予備軍です、といった説明を受ける場合もあるようです。

 

図2

CKD 2.jpg

とはいえ、eGFRが45 でも、その後の低下率が年 0.3 であれば、eGFRが 5に到達して透析が必要となるには130年間を要することなります。
一方で、年間の低下率が 2.0であれば、20年ほどで透析が必要となってしまうことになります。

 

図3

CKD 3.jpg

 このように、同じeGFRでも その後にどのような速度でeGFRが低下していくか、が重要なポイントです。

今後、eGFRが低下し腎不全に進行するか否かにつき、影響を与える重要な要素が 蛋白尿の程度です。


この事実から、当初 CKDの分類はeGFRだけでしたが、その後に蛋白尿の程度を同時に勘案するリスク分類に変更されました。
同じeGFRでも 尿蛋白が多いとリスクはより高くなる、赤になる、という関係にあります。

名称未設定.jpg
                  日本腎臓学会編「CKD診療ガイド2012」より作成 

 


あまり引用されていない論文なのですが、
eGFRの程度ごとに 蛋白尿の程度とeGFRの低下率を報告した論文があります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23833255

eGFR 60~15 と腎機能の低下があっても、尿蛋白が陰性であればeGFRの低下率の平均は0.3以下、つまりCKDをもたない方と同等であり、さらに、
95% 信頼区間の下限をとってもeGFRの低下率は年0.3以下であり、
尿蛋白が陰性の方はeGFRの低下があってもその後に進行性に腎機能が悪化する人は極めて例外的ということになります。
つまり、蛋白尿が陰性であれば、ほとんどの方が、上記図の緑の矢印の経過をとると期待できるということになります。

 

日本からの同様の報告があります。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0190493

上記論文と同様に、3年間の観察期間で蛋白尿が正常なStage 3~5 のCKDはGFRの低下が極めて例外的であることが報告されています。

 

蛋白尿が陰性の方はそれほど、心配しないでよさそう、と感じていただければ幸いです。

 

 


一方で蛋白尿の多い方 A3 に分類される グループは eGFR低下率は1以上の高い数値がとなっているわけですが、
尿蛋白が多ければ多いほど腎機能の悪化は早い関係にあり、
0.5~1.0 の程度の尿蛋白での腎機能の悪化のスピードはそれほはど早くありません。
➡️ 尿蛋白が 0.5~1.0 g/gCr なら、腎不全の進行は比較的緩徐です。


 

eGFRが低下し腎不全に進行するか否かについては、経年的なeGFRの低下がの有無も重要であることも明らかとなっています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24892770
ですが、前述した尿蛋白とeGFR低下率の関係を考えれば、経年的なeGFRの低下が起きた事例はほとんどが尿蛋白が多かったと想定できることになります。
関連した論文として、ARB投与中の患者さんのデータですが、経過中の尿蛋白が多い群でGFR低下が起きることが報告されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30148871/

 

 

 

2)そもそも透析が必要になる人は数百人にお一人なので、正常の人の比較で将来透析の可能性が少々高くても、よほど運がわるくなければ、透析が必要となったりしない。

      G3aA1 (eGFR 45~59 、蛋白尿が陰性) の場合 
     〜 50年経っても 95 % の方は大丈夫 


    G3bA1 (eGFR 30~44、蛋白尿が陰性) の場合、
     〜 50年後でも 9割の方は大丈夫    

    

具体的にどのぐらいのリスクなのか?  という問題です。

腎機能が現在正常の人でも、将来、腎臓病を発病し透析になってしまう可能性はゼロではありません。

 

低いながらも、どの程度の方が腎不全に進行してしまうリスクがあるのでしょうか? 


CKD分類ではeGFRに加え 蛋白尿の程度 をA1~A3 として分類し、それぞれで危険度を色分けしていますが、具体的な数値の記載がありません。
原著には具体的な数値の記載があります。


リスクを数値で考える場合、 
健康な人と比べてどの程度危険なのか(相対リスク) と 何人に1人が腎不全になってしまうのか(絶対リスク)があります。
現在のCKDのリスク分類の元になった論文には具体的な数値の記載があります。

https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(15)54924-7/pdf
Figure 5   下段 一番左のパネルに末期腎不全(ESKD) をご参照ください。


日本腎臓学会のCKD分類と分類が異なっている部分があり、乱暴なやり方ですが、相対リスクの平均をとった数値を示してあります。
A1ではA3のリスクの10分の1程度であり、eGFRだけでリスクを評価することが不適切であることがご理解いただけると思います。

HM数値.jpg
                       末期腎不全へ進行の相対リスク
                        Kidney International (2011) 80, 17–28  より改変


蛋白尿陰性 A1 において、末期腎不全(ESKD) に至る相対リスクは 
  G3aA1(eGFR 45~60 蛋白尿陰性)  は   13倍程度
  G3bA1 (eGFR 30~45 蛋白尿陰性) は 65倍程度 
となっています。

 

随分危険ではないか、と、思われるかもしれませんが、
そもそも健康な人が腎不全に進行する絶対リスクが低いことを考える必要があります。


Figure 5  のfigure legend に末期腎不全の発症頻度の記載があり、健康な人が腎不全に進行する絶対リスクは  1000人で1年間に 0.04人が腎不全 とされています。「Incidence rates per 1000 person-years for the reference cells are 0.04 for kidney failure. (一部略)」

 
G3aA1 (eGFR 45~59 、蛋白尿が陰性) の場合、このリスクが 20 倍とすると
  〜 1年では 1000人に1人、 
  〜 10年で  100人に約1人 
  〜 50年で 100人に4人 が腎不全に至る.

50年経っても 95 % の方は大丈夫 ということになります。

 

G3bA1 (eGFR 30~44、蛋白尿が陰性) の場合、リスクが50 倍とすると、
  〜 1年では 1000人に 2人、
  〜 10年で2人 
  〜 20年で4人、
  〜 50年で約10人 が腎不全に至る

〜〜 50年後でも 9割の方は大丈夫 ということになります。

 

蛋白尿以外ににも高血圧 喫煙 が腎不全進行のリスクとされており、高血圧がない、喫煙をしていない、方のリスクは さららに低いと考えられます。

この絶対リスクを高いと感じるかどうかは個人差がありることと思いますが、心配することは身体にわるいことがしられているので、あまり心配しないこをおすすめしたいと思います。

 

3) eGFRはGFRの測定方法として不正確なので

 A) eGFR60以下とされてもGFRの低下はない正常の腎機能の方が多数含まれている。
 B) eGFR 45~60でのリスクの上昇は、真のGFRが高度に低下した症例のリスクを拾っているだけであり、
                → GFR 45~60 の軽度の腎機能低下例の  リスクは数値ほどではない可能性が高い 

eGFRはあくまで簡便なスクリーニング法に過ぎません。正確なGFR測定法とされるイヌリンクリアランス法の各患者ごとの比較では(Fig 2 右パネル)➡️  eGFRが45~60 では真のGFRが30〜45の方も珍しくない一方、60以上の方もめずらしくないことが確認できます。これらの方をまとめて解析すると、蛋白尿が陰性でも、その後の腎不全への進行のリスクは健常人の方より高いことされていますが、このリスクは、真のGFRが60以下となった場合のリスクではなく、30前後まで低下してしまった方のリスクを拾っている結果では、と考えることが可能です。なので、Staga 3Aの多数の方のリスクはそれほど高くはない、と考えてよさそうです。

 

 

4) 高血圧、糖尿病、喫煙、を放置しないことは大切

 

喫煙をされている方は禁煙をすることにより、
高血圧を放置されている方は高血圧をしっかり管理することにより
糖尿病の方は血糖を適切な方法で管理することにより、 
腎不全進行のリスクを下げることができると考えます。

それ以外の、合併症をお持ちでない方は、ある程度の塩分を控える(過剰な塩分制限は危険です。高血圧がなければ9g程度で十分、6g程度までの制限が無難です)、肥満を回避する、軽い運動をする、などの一般的なそこそこの節制は、慢性腎臓病以外の健康にもよいと考えられており、試みることはよいのではないでしょうか?

また、腎臓が悪いというと蛋白制限を試みてしまう方がめずらしくありませんが、
十分なエビデンスがある治療ではなく、
筋力低下などの副作用の頻度も高く、
特にご高齢の方の蛋白制限は回避すべきとの意見が多くなってきていると思います。
一方で、ジムなどで筋力強化のための蛋白サプリをすすめる場合もあるようですが、蛋白質の過剰摂取は回避した方がよいと思います。


 

 5)特殊な原因がないことの確認は必要 

頻度は高くありませんが、薬剤による腎障害や水腎症による腎障害の場合は 腎機能の改善が期待できます。
また、頻度はさらに低くなりますが、家族性の特殊な腎疾患の可能性もあります。
ですので、医師の指示に従い、念の為のある程度の精査は必要です。