短期的なGFRの低下をendpointとしたRCTの問題点
CKDは長期にわたる疾患であり蛋白尿の出現から末期腎不全への進行まで10年以上の経過が普通です。
RCTによるハードエンドポイントの改善が証明された治療を重視する流れが現在の医学の主流ですが、
10年後の透析導入をハード・エンドポイントとしたRCTを行うことは実質的に不可能です。
このような問題点に対して、近年、2年ほどでのeGFRの低下をサロゲート・エンドポイントとしたRCTにてエビデンスを得ようとする試みがなされています。
この試みについては、2年で腎機能の低下が起きるIgA腎症への有効・無効が 10年後に軽度の腎機能障害をきたすようなIgA腎症の腎障害の抑制にそのまま当てはまる保証がない、という問題がありるのですが、 ( ➡️ 「RCTで個々の患者さんの最適治療はは決定できないと考えます」 の 3)をご覧ください)
同時に、2年ほどでのeGFRの低下をサロゲート・エンドポイントとしたRCTで ある介入により数年でのeGFR低下症例の減少に統計的な有意差がついたとしても、10年後の導入者数においては有意差がつかない事態が想定される、という、根本的な問題があります。
この新しいRCTの手法は、eGFRの数年での低下群は 非低下群より その後の末期腎不全に至るリスクが高いという研究成果をもとにした方法です。
極めて重要なコホート研究なのですが、この結果をもとに、2年間でのeGFRの低下症例の減少をサロゲートエンドポイントとしたRCTを行い、その段階での有意差をもってして、ある介入の有効性を判定することにより、症例数と研究期間 が節約できる、との考えがあるのですが、この研究結果をもとに、末期腎不全への予想進行症例数を計算すると、有意差がつかなくなってしまう場合がります。
例えば コントロール200 介入群 200 のRCTにおいて、eGFR 40% 低下した症例が コントロールで 40例 治療群で 20例 と想定すると
カイ二乗検定では、 P< 0.01 と有意に eGFR の低下症例が減少したことになります。
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コントロール |
治療群 |
N |
200 |
200 |
eGFR 40% 低下 |
40 |
20 |
eGFR 低下なし |
160 |
180 |
上記論文の結果からは、
RCT開始時の eGFR が65 とすると、 10年後の末期腎不全の発症率は
40%低下した群からは12%、 eGFRの低下がなかった群からは0.9 % とされています。
この数値をもとに 10年後に末期腎不全に至った症例を算出した結果が下記です。
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コントロール |
治療群 |
N |
200 |
200 |
eGFR 40%低下よりESKD |
40 x 0.12 = 4.8 |
20 x 0.12 = 2.4 |
eGFR低下なしよりESKD |
160 x 0.009 = 1.44 |
180 x 0.009 = 1.62 |
ESKD あり |
6人 |
4人 |
ESKD なし |
194人 |
196人 |
カイ二乗検定では、 P > 0.5 と全く有意ではありません。
そもそも、2年で40%のeGFRの低下がおきても末期腎不全に至る症例はすくないこと、
ならびに、eGFRの低下が起きていない症例からも末期腎不全に至る症例があること
が、影響するからです。
この例では、症例数を 2000 vs 2000 に増やすと、 同様の計算で P< 0.05 になります。
この手法により、症例数を減らせる、との意見もありますが、
End points based on lesser eGFR declines provide a greater number of events in a shorter time, raising the possibility of using surrogate end points based on lesser eGFR declines to reduce the follow-up times and/or sample sizes required in clinical trials.
Am J Kidney Dis. 2014;64(6):867-879
有意差を水増ししているようなことでは、と思えてしまいます。