カプラン・マイヤーでは腎不全進行リスクが過大に評価される
IgA腎症の長期予後について、10年で15% 20年で35%、30年では50%が末期腎不全に至る、とする記述をみかけます。
今日、蛋白尿の増加のないIgA腎症腎症の予後は極めて良好であることはすでに明らかとなっており、「IgA腎症」と一括りにする意義がどの程度あるか、疑問に思いますが、
同時に、カプラン・マイヤー法で超長期生存率を算出する手法にも末期腎不全進行リスクが過大に評価されてしまうという問題があります。
そもそも、カプラン・マイヤー法は対象症例にランダムに脱落がおきることを前提にして群間の統計的有意差を検定する目的で使用される手法です。
カプランマイヤー法で20年腎生存率が40%だとしても、40%が証明されたわけではなく、脱落例が多ければ多いほど大きな誤差がありうる数値です。
さらに、慢性腎炎によるCKDの場合、寛解例は脱落しやすく、非寛解例は脱落しにくい。その結果として腎不全リスクが過大に評価されてしまう、という問題があります。
尿蛋白が寛解した症例は通院を中止する一方、蛋白尿が持続、腎機能の悪化の始まった症例は通院を継続する、という事態がおきるからです。
2004年の膜性腎症ネフローゼの論文にてその事実を確認できるので紹介いたします。
Pubmed
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15086481
Free full text
https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(15)49850-3/fulltext
PDFはこちらです。
https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(15)49850-3/pdf
日本において、膜性腎症ネフローゼの長期予後を検討したコホート研究です。
論文のFig1 では全体の腎生存率をカプランマイヤーで示していますが、15年以後、腎生存率のカーブが悪化していることが見て取れます。
一方で、ネフローゼ寛解の程度ごとのカプランマイヤーがFigure 3 に示されており、 模式図的にみれば、それぞれの群では直線的に腎生存率が低下しています。
それぞれの群のエントリー時の症例数はTable 1 に記載されれており
完全寛解 400 (42.1%)
不完全寛解I型 233 (24.6%)
不完全寛解II型 162 (17.1%)
非寛解 154 (16.2%)
とうい割合で非寛解群は少数派です。
カプラン・マイヤーではイベントの発生ごとに残っている症例数で低下率を算出するので、症例数が減れば1回のイベントで低下する割合が大きくなります。
Fig 3をみると、寛解群は当初イベント発生時の低下は小さいのですが、10年を以降はイベントごと低下の割合が大きくなっています。
一方、非寛解群は15年を超えてもイベントごとに低下の割合は小さいままです。
つまり、寛解群は多数の症例が脱落し10年以降は症例数が少数となっているが、非寛解群では多数の症例が残っていることを意味し、
全体の生存率が15年以降悪化していることは、悲寛解群の占める割合が増えたことによると判断できます。