RCTで個々の患者さんの最適治療はは決定できないと考えます

現在の医療において、Randomized Controlled Trial (RCT) による治療方法の有効性の検証がエビデンスとして重要であるとされており、IgA腎症の治療においてもいくつかのRCTがなされていますが、IgA腎症の疾患的特徴より「個々の患者さんに最適な治療法がRCTで決定される」ことは今後もあり得ない、と考えています。

その理由は

 

1)病型が多彩である一方、症例数はそれほど多くないこと。

IgA腎症の病理分類と臨床分類を掛け合わせた病型は極めて多様であり、それぞれで予後が違うことが報告されています。とすれは、本来、RCTはそれぞれの病型ごとになされなければならないはずです。一方で、IgA腎症の症例数はそれほど多くなく、多様な病型ごとにRCTを行うことは実質的に不可能と思われます。事実、これまでのRCTのほとんどがIgA腎症の診断以外、病理分類は考慮せずに、蛋白尿とGFRのカテゴリーされたIgA腎症においてなされています。

 

2)10年予後が問題となる疾患であること

2〜5年で腎機能が末期腎不全へ進行するIgA腎症においては免疫抑制治療の有効性がRCTで検証できる可能性もあると思いますが、多くのIgA腎症の経過はより長期で10年以上の長期予後が問題となる疾患です。上記の症例数が多様であり、症例数がそれほどでもない、という事実に加え、ハードエンドポイント検証するには10年以上の予後を検討しなければならないということが純粋なRCTによる治療の有用性の検証をさらにありえないことにしています。IgA腎症の予後の検証は、RCT後のコホート研究の結果に頼らざるを得ない疾患です。

3)2〜5年で腎機能が末期腎不全へ進行するIgA腎症への治療の有効性の有無が、慢性的な経過で徐々に腎機能が悪化するIgA腎症への効果をの有無を保証しないこと。

近年、CKDは10年予後が問題となる疾患でありRCTを組むことが困難であるため、短期的なGFR低下というサロゲートマーカーをエンドポイントとできるのでは、という考え方があります。
この方法では統計手法としての有意差が過剰にでてしまう問題があるのですが(eGFRの軽度低下をエンドポイントとするRCTの統計的な問題点をご覧ください。)、IgA腎症の場合それに加えて疾患の多様性の観点から問題のある手法であると考えます。
IgA腎症の場合 数年で腎機能が低下するIgA腎症と10年以上の経過で徐々に腎機能が低下するIgA腎症 はそもそも同じ疾患ではないのでは、とういう問題です。


心房細動の抗凝固療法の場合は、ある程度の確率で血栓症が均一に起きるリスクが続く疾患であり、したがって適当な症例数の数年の観察期間でのRCTの結果は血栓をおこなさなかった患者さんにも同様に当てはめることが可能であり、長期にわたる抗凝固薬の使用につき、有用な情報を与えてくれます。

一方 IgA腎症の場合、数年で腎機能が悪化するIgA腎症は、同じ確率のIgA腎症の患者さんの中から、たまたまイベントがおきた、わけではありません。
2〜3年で腎不全が進行てしまうIgA腎症と10年かけて腎機能が徐々に悪化するIgA腎症が、共通のシステムで悪化が進んでいるという保証はありません。

カプランマイヤー解析で早期に差がなく、その後に差がでてくる例はそれほど珍しいものではありません。したがって、ある介入の有用性が短期間のGFRの低下の視点から否定されても 超長期で有用であるかの可能性は高いことになります。

一方で短期間で差がついたあと、その後のは傾きが同じような例もあり、有効であれば有効といってよい でよいと考えますが、
IgA腎症の場合、これまでの病理学的・臨床的な検証から、早期に腎機能が悪化する症例はある程度予想がついています。

・蛋白尿が著しく多く、血尿を伴い、半月体形成を認める、といった特徴があれば、数ヶ月で腎機能が悪化することが想定されます。

・増殖性のIgA腎症でネフローゼに近い蛋白尿を認めるタイプ(微小変化型のIgA腎症ではないということです)も数年で腎機能悪化のリスクが高いことも知られています。

このような進行性のIgA腎症では、尿蛋白を治療のターゲットとして、個々の症例で免疫抑制治療を行うことが、RCTの結果に無条件で従うことよりも優先されるのではないでしょうか? 
   〜IgA腎症は蛋白尿を治療のターゲトとして良いと考えます➡️ 

FSGSネフローゼでは尿蛋白をターゲットとした免疫抑制治療が一般的です。FSGS以上に、IgA腎症では尿蛋白の程度と予後の関連のデータが明らかとされています。IgA腎症で同様のアプローチが選択されない理由はありません。

 

 

IgA腎症における免疫抑制治療のRCTは、

  • 尿蛋白の寛解率がどの程度想定されるか、
  • 副作用のリスクがどの程度か
  • 尿蛋白の減少効果と独立に、腎予後を改善する効果があるか?

といった問題に対して重要な情報を与えてくれると思います。